――ネコミケ翌日・シーサイドタウン某所
「久しぶりのネコミケ、楽しかったなぁ」
漫画家兼書道家として活動する瓜山 レイは、アトリエで在庫整理をしていた。いくつかの同人誌に混じって用意されたのは、雑誌で連載中の漫画『怪盗ヘブン』の番外編を集めた短編集だった。
この『怪盗ヘブン』というのは、異能力を得た青年が笑顔を失った女神の為に、みんなが笑顔になれるような事をする、というギャグコメディだ。人気も知名度もそこそこあり、レイとしても、描いていて楽しい作品だった。
その表紙には白銀の髪を一本の三つ編みにし、赤いリボンを編みこんだ青年の姿が書かれている。これが怪盗ヘブンである。
「多くの人に読んでもらえて、君も幸せ者だね、ヘブン」
そういいながら、レイは愛しさを憶えつつ『怪盗ヘブン』の本を優しくなでなでする。と……一瞬であったが、まばゆい光を発した。
「えっ?」
びっくりしたレイは目をぱちくりとさせる。不思議に思いながら表紙に目をやると、そこに描かれていた筈の主人公の姿が無くなっていた。
「ど、どういう事だ……?」
レイは慌てて同人誌を手にとってぱらぱらめくる。と、確かに描かれていた筈の主人公の姿が、跡形もなく消えていた。
――シーサイドタウン・アウトレットモール
「わぁ! あっちのスカートかわいい!」
「ののこちゃんには、こっちのワンピースも似合うと思うわ」
とあるショップで、
野々 ののこと
芽森 菜々緒は色々な洋服を見ていた。たまたま街角であった2人だが、目的が一緒だったので共に行動する事にしたのだ。
「そうかなぁ? うーん、迷っちゃうなー」
菜々緒に進められたデニム生地のワンピースとののこ自身が選んだ赤いチェックのスカートを見比べつつも「どっちも買っちゃえ」と籠に入れるののこに、菜々緒がくすっ、と笑ってしまう。
「ねぇねぇ、菜々緒ちゃん! お買い物が終わったらアイスクリームを食べようよ♪ あ、クレープもいいなー」
「どっちも素敵ね」
そんな事を話しつつレジへと向かっていると……ひらり、と見えた赤いリボン。きょとん、となる2人。
「ヘブンッ!」
急にそんな声がした。ののこと菜々緒が振り返ると、そこには黒い衣装の青年がびしっ、とポーズを決めて立っていた。爽やかな笑顔で左手を腰に置き、右手は天を指差している。腰まである銀色の髪はトレードマークの赤いリボンが編みこまれた1本の三つ編みだ。
「誰なの?」
菜々緒がののこを後ろに庇いつつ厳しい目で問いかければ、青年は困った顔になる。
「いやぁ、警戒されたら参ったなぁ、子猫ちゃん達。僕はへブンって言う、君たちの退屈を戴きに来た怪盗、さ☆」
「怪盗ヘブン?!」
ののこが楽しげな声を上げて菜々緒の後ろから顔を出す。と、ヘブンはののこの手をとってにっこり笑った。
「そう! 僕こそが怪盗ヘブン! 皆を笑顔にする最高にクールな奴さ!」
「わぁい! 怪盗ヘブンだーっ!! 本当に居たんだねーっ♪」
漫画を知っていたのか、ののこは嬉しそうにニコニコ。
(彼は……もしや、神魂の力によって出てきたのかしら?)
菜々緒は内心でそんな予感を憶えていると、ヘブンが彼女の手をとった。
「?!」
「君、僕の双子の妹にそっくりだねぇ。なんか素敵だ! よぉし、一緒にこの街の人々を笑顔にするために、手伝ってもらおう!」
ヘブンは満面の笑みで菜々緒とののこの手を取ると、2人を連れて店を出てしまった。ご丁寧に2人が買おうとした服の取り置きを頼んで、である。そのそつのなさに菜々緒は目を丸くしてしまう。
「えーっと、名前は……当てちゃおう! ののこちゃんと菜々緒ちゃん、かな? そいじゃ! れっつらごー!」
「わーいっ!」
ヘブンに連れられ、ののこと菜々緒はシーサイドタウンの喧騒に紛れてしまった。ヘブンは2人の手を取ったまま、くすり、と笑う。
「暑い日にはこれがいいよね? どうせだったら、みんながひえひえになって美味しい気分になる事がいいよね? よーし、お兄さんやっちゃうぞー!」
そういうと、彼は2人を連れてなぜかショッピングセンターへと入っていった。その時、菜々緒は気づく。ヘブンの影が僅かに歪んだのを……。一方、ののこはヘブンが何をしようとしているのか判らなかったが、とても楽しい事がおこりそうだ、と笑顔になる。
「ひえひえで美味しい気分? わくわくする~っ!」
そんな中、もれいび達に声をかける者がいた。白と灰色の毛並みがつややかなテオである。
「まぁ、どうでもいいが、日没までにあいつを元の世界にもどさねぇと、原作の漫画からも消えちまうぞ?」
くれぐれもののこには気づかせぬよう付け加え、テオはふわぁ、と欠伸をした。
果たして、怪盗ヘブンは何をするつもりだろうか?
そして、どうすれば同人誌は元通りになるのだろうか?
――ヘブン!
シーサイドタウンに、怪盗の声が響き渡る。
菊華です。
今回は同人誌に宿った神魂の所為で、漫画の世界から怪盗ヘブンが出てきてしまいました。皆さんには、彼をどうにか元の世界に戻してもらいます。
……そこ、何かに似ていると思わないように。
難易度:★★
*『怪盗へブン』とは?
瓜山 レイが『宵宮 零』名義で手がける異能力系ギャグコメディ漫画。神様に見守られる世界に異変がおき、女神の1人であるノノカは『神としての力』と『笑顔』を失ってしまった。同時に不思議な力を持つ人間がちらほらと現れるように。
その1人であるパラダイスは『人々や女神様から悲しい気持ち・寂しい気持ちを奪い笑顔にする』ため『怪盗ヘブン』となって色々と馬鹿騒ぎなどを引き起こす。それに双子の妹や仲間たちが突っ込みを入れたりする、というお話。
*ヘブン自身について
正体であるパラダイスは、平凡な青年だったが女神であるノノカが『笑顔』を失った際、能力に目覚める。その意味を考えた末『ノノカに笑顔が戻れば神としての力も取り戻すのでは?』と予測し、怪盗ヘブンを名乗ってノノカだけでなく人々を笑顔にするべく楽しいトラブルを起すように。人を傷つけることは大嫌い。みんなの笑顔のためならば、無茶したり努力する。それがヘブンです。
連載中の漫画で起した事
・街角に『ご自由にお使いください』と張り紙した上でヘリウムガスの缶を設置
・街角に時限びっくり箱設置
・とあるお祝い事にてバイクで曲芸
・能力に悩む人を励ますために身体を張って自分の能力を見せる
・スタジアムを乗っ取って参加型謎解きゲーム大会開催
・旬の花でカフェを飾って秘密のお茶会 ……など。
*ヘブンの能力は?
彼は『大怪我をしても笑って済むレベルになる』という能力を持っています。その他、料理と絵、運転(自転車とバイク)を得意としています。あと、無駄に運動神経が高く無駄に体力があり、直感で名前を当てたりします。
……そんな怪盗ヘブンはシーサイドタウンで人々を笑顔にする為に何かをやらかす所存です。現在はののこと菜々緒をつれ回し、なぜかショッピングセンターやホームセンターを梯子しています。買っている物はアイスクリームや氷、ドライアイスやガラスの器、飾り用のモールなどのようです。
PL情報
日没までに物語の世界へ戻らないと、本屋さんに並んでいるコミックや雑誌に掲載中の漫画内のヘブンも姿を消してしまいます。また、現実世界に出現したヘブンも姿を消してしまいます。そうなると『フツウ』の状態とは呼べなくなり、連載を楽しみにしている子供達が困ってしまいます。
登場NPC
瓜山 レイ
目撃情報も聞いているので現場に向かっています。ヘブンについて聞けば色々答えてくれるでしょう。
野々 ののこ及び芽森 菜々緒
ヘブンにつれまわされ、共に行動しています。ののこは心から楽しんでいますが、菜々緒はヘブンから神魂の気配を感じ取っているため事情を話せば協力してくれるかもしれません。
それでは宜しくお願いします。 ヘブンッ!
追伸
ヘブンと色々やらかすというアクションの場合、色々とアドリブが増える可能性があります。この場合はアドリブ度はSorAが望ましいかと思います。